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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
いつも御自分のなかにとじこもって、誰ひとり近よせようとなさらない、ひとが苦しんだり悩んだりしていても、ただじっと眺めていらっしゃるだけです、あなたはそういう残酷な、いっそもう男らしくないかたですわ」
「おまえの眼は正しいようだ」と甲斐は頷いた、「しかし、私はもうこの性分を直すわけにはいかない、それについては、船岡へ帰ってから話すことにしよう」
「帰ってからなにを話すと仰しゃいますの」
「断わっておくが」と甲斐は云った、「十五年以上も夫婦でくらしたのは、おまえだけのことではない、私も同じ年数だけ、おまえと夫婦でいたのだ」
「そんなことうかがうまでもありませんわ」
「それなら結構だ」
「だからどうだと仰しゃるんですか」
「それなら結構だというのだ」
甲斐はそう云って、つかまれていた手を、しずかにふり放した。律はうしろへさがった。「一つだけお願いがあります」と律は低い声で叫んだ、「中黒達弥にいとまをやって下さい」
「なんのためだ」
「理由は云えません」
甲斐は眼をそらした、「親の代から仕えている者を、理由なしにいとまがだせるか」
「ですから一つだけのお願いと申しているんです」