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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
こがらし
又五郎は正面の玄関でなく、横へまわって、住居のほうの玄関からはいった。道場のほうは灯もついていず、人のいるけはいもなかった。
六郎兵衛は居間で酒を飲んでいた。若い女が三人、ひどく派手な拵えで給仕をしていた。十七か八くらいの、きりょうのいい女たちで、髪かたちも着ている物も、立ち居、身ぶりや言葉つきも、まるでいろまちの者のように嬌めいていた。
「向うへ向うへ」と六郎兵衛は手を振った。
新八がはいって、坐ろうとするとたん、手を振ってそう云った。又五郎は立って、新八にめくばせをし、その部屋を出た。
暗い廊下をいって曲ると、右側に灯で明るい障子があった。「石川うじ」と又五郎が呼びかけ、中から答える声が聞えた。又五郎は障子をあけてはいった。
中年の待が一人、そこに寝ころんでいた。
こがらし
宇乃は朝の食事をしていた。
まだ部屋の中は暗かった。掩いをした行燈の光が、寝ている虎之助の顔を、頭のほうから照らしている。宇乃はときどきそっちを見ながら、歯の音もさせまいというようにひっそりと食べていた。
宇乃の顔には疲れがみえる。彼女はまる二日のあいだ眠っていない、虎之助は七日ほどまえから風邪ぎみであったが、一昨日になって、医者が麻疹であると診断した。