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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
すると、うしろで叫ぶ声がした。こちらです、と叫んでいた。
「塩沢さまこちらです」
振返って見ると、弥吉が切通しのほうを指さしていた。丹三郎は駆け戻った。
「いま愛宕下のほうへ曲るのをみました」と弥吉が云った。
「付いている人数は」
「二人いたようです」
丹三郎はけんめいに走った。
まばらに往来する人たちが、走ってゆく丹三郎を見ると、慌てて脇へよけたり、不安そうな眼で見送ったりした。突風の来るたびに、道の上で埃がまいあがった。――青松寺の前を少しいったところで、丹三郎は駕籠に追いついた。駕籠のうしろに、黒い羽折で、頭巾をかぶった侍が一人、前のほうに、まだ少年らしい侍が一人付いていた。
左は寺、すぐ向うに愛宕山が見える。右側は武家屋敷で、仲間たちが門前を掃いているのが見えた。丹三郎は駕籠を追いぬいて、絶叫しながら前へ立ちふさがった。
「駕籠を停めろ」
そして「あっ」と眼をみはった。相手もあっといった。駕籠は停った。
「宮本ではないか」と丹三郎が云った。
新八はさっと蒼くなった、大きく眼をみはり口をあいたが、声は出なかった。
丹三郎は向うを見た。駕籠のうしろにいた侍が、こっちへ進んで来た。