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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
と云った。だが久馬は答えなかった。鳴物の音もあるし、甲斐の声も低かったが、久馬はおうらに気をとられていて、まったく耳に入らなかったのであった。
甲斐は振向いて彼を見、もういちど「足をさすれ」と云った。久馬ははっとし、自分をみつめている甲斐の眼に気づくと、殴られでもしたように、うしろへしさって手をついた。
「なにをうろたえている」甲斐は静かに云った、「おれの云うことが聞えなかったのか」
久馬は「は」と平伏した。
久馬のようすが唯ならぬので、芸人たちは鳴物をやめ、踊り手も踊りをやめた。甲斐はそちらへ手を振り、「なんでもない、続けろ」と云い、穏やかな眼で、久馬をじっと眺めた。芸人たちはまた芸を始めた。
「久馬」と甲斐が静かに云った、「いつも粗忽なくやって来たのに、今日はどうした、そんなことでは大事な勤めがはたせまいぞ」
久馬は平伏したまま息をのんでいた。甲斐の言葉には二重の意味がある、久馬はそう感じたようであった。
おくみがそばから云った、「もう堪忍してあげて下さいまし、きっと疲れておいでなんでしょ、あたしがお揉みしますわ」
「いや大丈夫です」と久馬は顔をあげた、「私は疲れてはおりません、うっかりしていてついお申しつけを聞きはぐったのです、お腰を揉むのですか」