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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁

青空文庫

「よし、もういい」と甲斐はもの憂げに云った、「そうむきになるほどのことではない、さがって休め」

「私は疲れてはいません」

「さがって休め」と甲斐が云った。

久馬は甲斐を見た。甲斐は肱を立て、手で頭を支えながら、うっとりと眼をつむっていた。

――久馬は座をしさりそれから立って出ていった。甲斐はそのままうとうとしているようであった。いつものことなので、芸人たちは代る代る芸を演じたり、信助にすすめられて酒を飲んだりした。

そして八時ごろになると、甲斐はさりげなく立って、ちょっと信助の顔を見てから、そこを去って寝間へはいった。寝間にはさっきのまま夜具がのべてあった。甲斐のあとから来たおくみが、「おでかけでございますか」と訊いた。

甲斐は首を振った、「松山が来るんだ」

「茂庭さまがですか」

「うん、木戸をあけておいてくれ」

おくみは出てゆこうとして、どこへ客をとおすのか、と訊いた。

おまえの寝間がいい、と甲斐が云った。

おくみが出てゆくと、甲斐はそのまま夜具の中へ横になった。座敷では、鳴物や唄の声が、高くなり低くなり、賑やかに続いていたし、ときには信助のうたう、鄙びたお国ぶりも聞えて来た。