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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
――なにが出て来るかわからないぞ。
だから表立っては、誰一人としてそのことは口にしなかったし、そうする者があろうとも思わなかった。だが、いま勘解由は正面から、それにいどみかかったのであった。
一瞬の緊張した沈黙は、やがて、甲斐の静かな咳の声でやぶられた。兵部と勘解由とが振向いた。
「なにか意見がおありか」と兵部が甲斐に云った、甲斐は「いや」といってもういちど咳をした。
兵部は勘解由を見た。
「ぜひ、――というのだな」
「そうです」と勘解由は云った、「私は新任ですが、評定役としてかれらの審問を求めます」
「よかろう」と兵部は云った、「いいだろう、すぐに此処へ呼んで調べるがいい、必要なら万右衛門とかいう小者も呼べ」
「両人だけで充分です」
甲斐は黙って、兵部の冷やかな、嘲弄するような声と、勘解由の年にもにあわず(彼はもう三十六、七であった)むきに昂奮した声とを、聞いていた。
渡辺金兵衛と、渡辺七兵衛がよびだされて来た。同姓ではあるが親族関係はない。金兵衛は二十五歳、七兵衛は二十七歳、どちらも小者頭を勤めていた。
二人は縁側に坐った。押籠ちゅうなので、両者とも無腰であり、月代も髭も伸びていた。