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きをあいするこころ

樹を愛する心

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《樹を愛する心(きをあいするこころ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,805 字 · 6 頁

青空文庫

庭の中に、桃の木があった。径五寸ばかりの古木で、植木屋が下枝を払ってしまったので、曲りくねった風雅な一本の幹だけが、空間に肌をさらしていた。だが、その上方、若枝の成長はすばらしかった。強く、盛んに、爆発めいた勢で、枝葉が四方へ伸びた。沢山の実がなった。その精力と重みとは、それを支える古い幹には、堪え難そうに思われた。

危い! と私は思った。

――少し刈りこんであげようか?

桃の木はその重い頭を、平然と振っている。強い風には急に、弱い風にはゆるやかに、頭を振っている。

――刈りこんであげよう。

桃の木はやはり頭を振っている。

それを、躑躅や山吹や薔薇や荻などは、不安そうに見上げていた。殊に金魚や水蓮などは、一種の恐怖を以て見上げていた。

だが、桃の木はやはり平然と頭を振っていた。

その頭の茂みの中には、金色の蝿が飛んでいる。蜜蜂が羽音を立てている。朝は小鳥が戯れ、夕は蝶が休らっている。

家族揃って夏の旅に出かける時、私はいつも留守の者に云い残した。

――あの桃の木は危いから、気をつけておいてくれ。

旅から帰ってくると、桃の木は昂然と頭をもたげていた。