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いきふどう

橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇

橘 外男

線上閱讀橘 外男《橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇(いきふどう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 198,400 字 · 387 頁

青空文庫

「おや、わたしうっかり忘れていた。お藤さんは魚政にいいつけといてくれたかしら?」

魚政というのは出入りのおさかなやでしたが、わたしちょっと手がはなせないからお藤さん、魚政がきたらあなたそういいつけて、だんなさまのおさしみをつくらせておいてくださらない、とたのんでおいたのです。

もう夕飯のしたくにかからなければならないのですが、毎夕かならず二、三本のおかんをあける習慣になっている左近将監の、酒のさかなでも用意しておかない日には、たださえ癇癖のつよい将監から、どんなおしかりをうけぬともかぎりません。それを思うと、もう、きものをたたんでいるどころではありません。家のなかをかけだすようにして、八重は表玄関へとんでいきました。

もう左近将監が御殿からかえるにまもないころですから、いつものように藤も玄関の式台や、あがり階段のあたりを、手ぬぐいで姐さまかぶりをして、たすきをかけて、せっせと一心にふいておりました。

「お藤さんちょいとあんた! さっきたのんどいたものを、魚政にいっといてくれたかしら?」

「ええおさしみでしょう、さっきいっときましたよ。きのうは海がしけて、だんなさまのお召しあがりになるようなお魚がないから、店へかえって何か見つくろって、スグおとどけいたします、っていってましたからね。