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ぶこうざんにのぼる
武甲山に登る
河井 酔茗
線上閱讀河井 酔茗《武甲山に登る(ぶこうざんにのぼる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,273 字 · 7 頁
その周囲をパノラマのように画って居る一々の山の名は、山岳に通じない吾等に其が何山、是が某岳と指示することは出来ないが、凡そ関東の高山は、大半其姿を表わして居るので、生憎夕闇の為にかすんで見えないが、富士は勿論、武蔵、甲斐、信濃、両毛の諸高山は、皆其裡に収まっている。
武蔵野平原は、蒼茫たる大海の如く、その大海の底に都会あり、市街あり、無数の人間があり、下界の空気は今、夕暮の渦巻に乱されて居るだろうが、山上より見下したる平原は、ただ蒼茫として太古、国なき世の如し。
時間は長く吾等を山頂に止まることを許さない、下山の途に就くと同時に、暮色遽に身に迫るを覚えた。低い山から暗くなり初めて、果然太陽は浅間に近い山に落ちかかった。T氏は別の途から下ろうとして、山一ッ下に小さく見えていた樵夫に、ある丈の声を出しで途を聞いたが、矢張上って来た途を降るのが宣いらしいので、樵夫は又、早く降りないと夜になるぞと励ますように言い足した。
山上の落日は、僅少の人間に示す空中の美しさであろう、雲の山に帰る時、日の山に隠るる時、山上の世界は、無言の讃美を夕の光線に集めて了った。