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ははへのついぼ

母への追慕

上村 松園

線上閱讀上村 松園《母への追慕(ははへのついぼ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,091 字 · 5 頁

青空文庫

私は母のその言葉をきいたとき、絵や参考品を失ったことを少しも惜しいと思わなかった。

母のこの言葉を得たことがどれほど力づよく感じ、どれ程うれしかったことか知れなかったのである。

母はしかし、火事の打撃にまけず、高倉の蛸薬師に移って、やはり葉茶屋をつづけながら私たちの面倒をみ、その年の秋に姉を立派に他家へ嫁づけたのである。

母と私の二人きりの生活になると、母はなお一そうの働きぶりをみせて、

「お前は家のことをせいでもよい。一生懸命に絵をかきなされや」

と言ってくれ、私が懸命になって絵をかいているのをみて、心ひそかにたのしんでいられた容子である。

私は母のおかげで、生活の苦労を感じずに絵を生命とも杖ともして、それと闘えたのであった。

私を生んだ母は、私の芸術までも生んでくれたのである。

それで私は母のそばにさえ居れば、ほかに何が無くとも幸福であった。

旅行も出来なかった。泊りがけの旅行など母を残して、とても出来なかったのである。

昭和十六年の中支行きは、そのような訳で私にとっては初旅といっていいものである。

私が十歳位のころである。

母は三条縄手を下ったところにある親類の家へ行って留守の折、家で姉と二人で母の帰りを待っていたが、なかなかに帰られなかったので、私は心配の余り、傘を持って奈良物町から四条大橋を