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はは

母

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《母(はは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,551 字 · 18 頁

青空文庫

敏子は髪へ手をやりながら、ちらりと女の顔を眺めた。昨日は泣き声を聞いているのも堪えられない気がした隣室の赤児、――それが今では何物よりも、敏子の興味を動かすのである。しかもその興味を満足させれば、反って苦しみを新たにするのも、はっきりわかってはいるのである。これは小さな動物が、コブラの前では動けないように、敏子の心もいつのまにか、苦しみそのものの催眠作用に捉われてしまった結果であろうか? それともまた手傷を負った兵士が、わざわざ傷口を開いてまでも、一時の快を貪るように、いやが上にも苦しまねばやまない、病的な心理の一例であろうか?

「この御正月でございました。」

女はこう答えてから、ちょいとためらう気色を見せた。しかしすぐ眼を挙げると、気の毒そうにつけ加えた。

「御宅ではとんだ事でございましたってねえ。」

敏子は沾んだ眼の中に、無理な微笑を漂わせた。

「ええ、肺炎になりましたものですから、――ほんとうに夢のようでございました。」

「それも御出て々にねえ。何と申し上げて好いかわかりませんわ。」

女の眼にはいつのまにか、かすかに涙が光っている。

「私なぞはそんな目にあったら、まあ、どうするでございましょう?」