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みずのしたのいし

水の下の石

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《水の下の石(みずのしたのいし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,791 字 · 28 頁

青空文庫

一

一

「おそろしく暗いな……如法闇夜とはこんな晩のことをいうのだろうな」列の五六人さきでそう云うこえがした、だがそれに答える者はなかった。二列になって泥濘を踏んでゆく百余人の武者草鞋の音だけが、単調な、飽き飽きするくらいおなじ歩度で少しのとぎれもなく続いている、濃い闇をこめて降る雨は霧のように粒がこまかくて、甲冑や具足の隙間から浸みこみ、膚をつたって骨までじっとり濡らすかと思える。三日二夜ぶっとおしに、山を越え峡谷をわけての強行で、たれもかれも疲れきっていた、口をきくのもたいぎだった。われとひとのわかちもない、単調な、気のめいるような足音、粘りつくような泥濘を踏むその足音にひきずられる感じで、みんな黙々とただ歩くことに専念した。「……だが如法闇夜という言葉はどうもおかしい」さっきの声の主がまたそう云った、「法の如く暗いというと、法というものがもともと暗闇だということになる、法が闇だなどということはない、そうだろう杉原、どうだ、きさまそう思わないか……」しかしやはり返辞はない、加行小弥太は肩の銃をゆりあげながら、――安倍大七も疲れてきたな、そう思ってふと微笑した。