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すいごういぶん

水郷異聞

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《水郷異聞(すいごういぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,516 字 · 36 頁

青空文庫

と云う論文に対する反駁であった。

「御飯を持ってまいりました」

婢の声がするので省三は眼をやった。二十歳ぐらいの受持ちの婢が膳を持って来ていた。

「飯か、たべよう」

省三は眼の前にある煙草盆へ煙草の吸い殻を差してから起きあがったが、脇の下に敷いていた布団に気が注いてそれを持って膳の前へ往った。

「御酒は如何でございます」

婢は廊下まで持って来てあった黒い飯鉢と鉄瓶を執って来たところであった。

「私は酒を飲まない方でね」

省三はこう云ってから白い赤味を帯びた顔で笑ってみせた。

「それでは、すぐ」

婢は飯をついでだした。省三はそれを受け執って喫いながら、こんな世間的なことはつまらんことだが、こんなばあいに酒の一合でも飲めると脹みのある食事ができるだろうと思い思い箸を動かした。

「今日は長いこと御演説をなされたそうで、お疲れでございましょう」

その婢の声と違った暗い親しみのある声が聞えた。省三はびっくりして箸を控えた。そこには婢の顔があるばかりで他に何人もいなかった。

「今何人か何か云った」

婢は不思議そうに省三の顔を見詰めた。

「何んとも、何人も云わないようですが」