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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
せめて兄さまにお願い申して……」と、なんにも知らないお光は頼むように言った。
あんなに世話になって置きながら、それぎりに顔出しをしないでは、義理知らずだと思われるのも心苦しいとも言った。
「そのうちに一度行こうよ」と、栄之丞も妹の気休めにまずこう言っておいた。
「では、ぜひ近いうちに……。いずれ又お話を伺いに出ますから……」
お光は余り遅くならないうちにと、言うだけのことをいってすぐに帰った。
さっきから日向に立っていたので、栄之丞はうすら眠いような心持ちになって、どんよりした眼でふたたび吉原の空を見た。春の癖とはいいながら、晴れた空でも少しはなれた廓の上は煙るように霞んでいた。
ゆうべは八橋から手紙を受取った。きょうは妹に一度は行ってくれと頼まれた。しかも、このうららかな春の日にあぶられて、栄之丞の肉も心もおのずと春めいて来た。ともかくも一度八橋に逢って、起請を焼いたわけを聞いて見ようかというような未練もおこった。次郎左衛門がこの頃ちっとも来ないという訳も聞きたかった。
この際よし原に入り込んでも次郎左衛門と顔を合わせる気づかいはあるまいという一種の安心もあった。