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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

このごろ足をぬいたのも無理はない。利口な人ならば、ここらでもう見切りをつけて、二度と大門をくぐらない筈であると、八橋は彼の未来を占うように言った。

「そうかも知れない」

栄之丞は思わず溜め息をついた。廓で全盛を尽くした大尽の零落は珍らしくない。次郎左衛門が佐野の身上をつぶしたことは、栄之丞もとうに知っていた。それでも彼がいよいよ大門をくぐることが出来ないほどに行き詰まったかと思うと、栄之丞は急に悲しい果敢ないような、なんだか涙ぐまれるような寂しい心持ちになって来た。

「何を考えていなんす。花の三月、浮きうきとおしなんし」と、八橋は華やかな声で笑った。

栄之丞は黙っていた。こうしてうかうか釣り出されて来たものの、彼は女の心がやはりおそろしかった。

新造の掛橋や浮橋が催促に来た。八橋は仲の町の茶屋へ行かなければならなかった。彼女は栄之丞を待たせて置いて出た。

十六

享保時代の仲の町には、まだ桜が多く植えられていなかった。その頃の夜桜というのは、茶屋の店先や妓楼の庭などへ勝手に植えられたもので、それが年中行事の一つとなって、仲の町に青竹の垣を結い廻して春ごとに幾百株の桜を植え、芝居の「鞘当」