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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
「番町の殿様お待ちかねでござります」と、女房は笑顔を粧った。「すぐにお連れ申しましょうか」
「あい」と、綾衣はふたたび鷹揚にうなずいた。
「では、お頼み申します」
若い者は提灯を消してひと足さきに帰ると、茶屋の女中は送りの提灯に蝋燭を入れた。
「きつい風になった。気をつけや」と、女房が声をかけた。
寒い風が仲の町を走るように吹いて通った。この風におどろいた一匹の小犬が、吹き飛ばされたようにここの軒下へ転げ込んで悲鳴をあげた。
「あれ、怖い」
禿は新造にすがって、わっと泣き出した。
「これ、おとなしくしや」
綾衣にやさしく睨まれて、禿は新造の長い袂の下に小さい泣き顔を押し込んでしまった。
三
あくる朝は四つ頃(十時)から雪になった。
この四、五日は暖かい日和がつづいたので、もう春が来たものと油断していると、きのうの夕方から急に東の風が吹き出して、それが又いつか北に変った。吉原は去年の四月丸焼けになった。橋場今戸の仮宅から元地へ帰ってまだ間もない廓の人びとは、去年のおそろしい夢におそわれながら怯えた心持ちで一夜を明かした。毎晩聞きなれた火の用心の鉄棒の音も、今夜は枕にひびいてすさまじく聞えた。