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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
「気をつけてお出でなんし」
綾衣が駕籠の垂簾を覗こうとする時に、白粉のはげた彼女の襟もとに鳥の胸毛のような軽い雪がふわりふわりと落ちて来た。
けさのこうした別れのありさまを思いうかべながら、綾衣は十畳の座敷につづいた八畳の居間に唯ぼんやりと夢みるように坐っていた。大籬に育てられた彼女は、浮世絵に描かれた遊女のようにしだらのない立て膝をしてはいなかったが、疲れたからだを少しく斜にして、桐の手あぶりの柔かいふちへ白い指さきを逆むきに突いたまま、見るともなしに向うの小さい床の間を見入っていた。床には一面の琴が立ててあった。なまめかしい緋縮緬の胴抜きの部屋着は、その襟から抜け出した白い頸筋をひとしお白く見せて、ゆるく結んだ水色のしごきのはしは、崩れかかった膝の上にしどけなく流れていた。
入り口の六畳には新造や禿が長火鉢を取り巻いて、竹邑の巻煎餅か何かをかじりながら、さっきまで他愛もなく笑ってしゃべっていたが、金龍山の四つの鐘が雪に沈んできこえる頃からそろそろ鎮まって、禿の声はもう寝息と変った。新造たちもうたた寝でもしているらしかった。
入り口と座敷とに挟まれた綾衣の居間は、昼でも陰気で隅々は薄暗かった。