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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

「ごめんください」

不意に案内を乞われて二人は少しくあわてた。お時も十吉もあいにくに留守である。二人は息をのんで暫く黙っていた。

「ごめんください、お留守ですか、もし、ごめんください。どなたも居ないんですか」

外ではつづけて呼んだ。そうして何かささやくような声もきこえた。綾衣は一種の不安におそわれて、男の手を思わず固く握りしめた。

「裏口を用心しろ」と、外ではささやく声が又きこえた。外記は無言で女の手を振り払って、蚊帳をするりと刎ね退けた。片手には刀を持って、しずかに襖をあけて出ると、一人の男が縁に腰をかけていた。ほかにも提灯を持った男が二人立っていた。

「あ、殿様でございましたか」

腰をかけている男が案外丁寧に挨拶した。彼は大菱屋の喜介という若い者であった。

「おお、喜介か。なにしにまいった」

外記はわざと落ち着いて訊いた。相手も面の憎いほどに落ち着いていた。

「へえ、花魁のお迎いにまいりました」

「花魁とは誰だ」

「へへへへへ」と、喜介は忌に笑った。「先々月駈け出したぎりで、音沙汰なしの花魁でございます。相手も大体見当が付いてはおりますが、表沙汰にしましてはまた御迷惑をする方もあるだろうと、内所で手分けをして探していましたが、眼と鼻の間のこんなところに隠れていようとは、今の今までちっとも知りませんでした。