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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

「おとなしい姐さんでございますね」

「あの子に、このごろ情人が出来たってね」

「さあ、そんなことは存じませんが……」と、お此は笑っていた。

「向柳原のほうのお屋敷さんだっていうじゃあないか」と、お花も笑いながらカマを掛けた。「おまえさん、毎日行くんだもの、知っているだろう」

お此の返事はあいまいであった。単に向柳原の屋敷者といえば大勢あるが、お絹の男も向柳原にいることをお此はかねて知っていた。その男がその不二屋へ遊びにゆくこともお此はやはり知っていた。ここでうっかりしたことをしゃべって、どんな当り障りがないとも限らない。諸方へ出入りする自分の商売上、なるべくこんな問題には係り合わない方が利口だと思ったらしく、お此は巧みにお花の問いを避けて、あさっての花火の噂などを始めた。

さっきから少しく眼の色の変っていたお絹は、もう焦れったくて堪まらないという気色で、倚りかかっていた箱をかかえながら衝と立って、お此の膝の前に詰め寄るように坐った。

「お此さん」

その権幕が激しいので、相手はうろたえた。

「は、はい」

「向柳原といえば大抵判っているだろう。あたしのとこの林さんのことさ。