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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
「どうも遅くなりました」と、お花は丁寧に挨拶した。
お絹は燭台の灯に顔をそむけて坐った。
女中はなんにも言わずに二人をじろじろ見ながらつんと立って行った。その素振りがなんだか自分たちを軽蔑んでいるらしくも見えたので、お絹はまず勃然とした。
「それでもよく出て来てくれたね」
男がさした杯をお絹はだまって受取って、お花に酌をさせてひと口飲んだ。お花が取持ち顔に何かいろいろの話を仕向けると、男も軽い口で受けた。
男は浅草の和泉屋という質屋の忰で、千次郎という道楽者であった。吉原や深川の酒の味ももう嘗め飽きて、この頃は新しい歓楽の世界をどこにか見いだそうとあさっている彼の眼に、ふと映ったのは両国のお絹であった。彼は自分の物好きに自分で興味をもって、この美しい蛇つかいの女に接近しようと努めた。楽屋への遣い物、木戸番への鼻薬、それらもとどこおりなく行き渡って、今夜ここでお絹と膝を突きあわせるまで手順よく運んだのである。彼はかなりに飲める口とみえて、二人の女を向うへまわして頻りに杯をはやらせていた。
男振りもまんざらではない、道楽者だけに容子も野暮ではない。お花が頻りに褒めちぎっているのも、あながちに欲心からばかりでもないことをお絹も承知していた。