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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
垂簾をあげて這い出したお絹は、よろけながら下駄を突っかけて立った。提灯の灯かげにぼんやりと照らされた彼女の顔はまだ蒼かった。暗い夜で、雨気を含んだ低い雲の間に、うすい天の河が微かに流れていた。
駕籠屋にはなんにも言わないで、お絹はよろよろと潜り門の前へあるいて行った。門にはもう錠がおろされていて、闇に白い彼女の拳が幾たびかその扉に触れると、そばの出窓から門番のおやじが首を出した。
「どなた……」
門番は大きく呼んだ。
「あたしですよ」と、お絹は答えた。「仁科林之助さんに逢わしてください」
「門限をご存じないか」
「それでも急用なんですよ。早く明けてください。後生ですから」
その媚いた口ぶりに門番も不審を打ったらしい。やがて行燈を持ち出して来て、窓のあいだから表の人の立ち姿を子細らしく照らして見た。
「急用でも夜はいけない。あしたまた出直して来さっしゃい」
「焦れったい人だね。用があるというのに……」
「おまえは一体だれだ。どこの者だ」と、門番は声をとがらせた。
「林之助の女房ですよ」
「林之助の女房……」
「だから、早く逢わしてください」
「では、待たっしゃい」
門番は不承ぶしょうに奥へはいった。