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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
主人は八橋にもう二百両やった。新造二人に十五両ずつやった。まだやらないが、茶屋の女房にも女中にもきっとやるに相違ない。まずあしたの朝日を拝むまでに、あわせて三百両は朝の霜のように消えてしまうものと思わなければならない。千両の三分の一はもうなくなる――こう思うと、治六は肉をそがれるように情けなかった。それでも、あしたの朝すぐに帰ればいい、もしまた未練らしくぐずぐずしていたら、きょう持って来た五百両はみんな飛んでしまう。おとなしくここまでは付いて来たものの、彼はもう主人の胸倉を掴んで引き摺って帰りたいようにもいらいらして来た。
背中合せの松飾りはまだ見えなかったが、家々の籬のうちには炉を切って、新造や禿が庭釜の火を焚いていた。その焚火の煙りが夕暮れの寒い色を誘い出すように、籬を洩れて薄白く流れているのも、あわただしいようで暢やかな廓の師走らしい心持ちを見せていた。治六は煙りのゆくえを見るともなしに眺めていた。寒い風が彼の小鬢を吹いた。
五
その頃の大音寺まえは人の家もまばらであった。枯れ田を渡る夜の風は茅屋根の軒を時どきにざらざらなでて通って、水谷の屋敷の大池では雁の声が寒そうにきこえた。