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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
父に捨てられ、母をうしなった六三郎は、親方のほかには大坂じゅうにたよる人もなかった。庄蔵はおとこ気のある男で、よく六三郎の面倒を見てくれた。ちっとぐらい虐待されても他に行きどころのない孤児が、こうしたいい親方を取り当てたのは、彼に取ってこの上もない仕合せであったことはいうまでもない。六三郎もありがたいことに思って親方大事に奉公していた。
六三郎はどの点に於いても父の血を引いていなかった。彼は母によく似た優しい眉や眼をもって生まれた。母によく似たすなおな弱々しい心をもって生まれた。気のあらい大工の渡世には少しおとなし過ぎるとも思われたが、その弱々しいのがいよいよ親方夫婦の不憫を増して、兄弟子にも朋輩にも憎まれずに、肩揚げの取れるまで無事に勤めていた。腕はにぶくもなかった。普通の丁稚とは違うものの、十年の年季をとどこおりなく済ましたら、裏家住みにしろ世帯を持たしてやると親方も親切にいってくれた。六三郎は小作りの子供らしい男なので、十八の春に初めて前髪を剃った。
いくらおとなしい男でももう十八である。前髪を落したからは大人の仲間入りをしろと、兄弟子や友達にすすめられて、六三郎はその年の夏に初めて新屋敷の福島屋へ足を踏み込んだ。