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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
「仲居の雪でござります。なんぞ御用と仰しゃりますか」
「ほかでもない。この女をおれにぜひ買わせてくれ」
仲居はふき出した。
「あの、お前さまの戯言ばっかり。このお染さまはお前のお相方ではござりませぬか」
「ほう、いつの間にかおれの相方と決まっていたか」と、男も笑い出した。「それならば面倒はない。花代はおれが払うから直ぐに帰してやれ。勤め振りが悪いので帰すのでない、気に入らぬので帰すのでない。その訳を主人によく話して聞かせて、この女の叱られぬようにしてやってくれ。よいか」
「ありがとうござります」と、仲居のお雪は取りあえず礼を言った。
しかし座敷の引けないうちにすぐお染を帰す訳にはいかないから、ともかくも二人ながら座敷へ一旦戻って、酒の果てるまで機嫌よく遊んでいてくれと言った。
お染は無論に承知した。男も承知した。二人はお雪に導かれて、再びもとの座敷へ戻ると、薄暗いところからはいって来たお染の眼には、急に世界が変ったように明るく華やかに感じられた。酒と白粉との匂いが紅い灯の前にとけて漲っていた。お染の涙を誘い出した秋の蛙の声は、ここまで聞えなかった。彼女はやはり俯向きがちで、生きた飾り物のようにおとなしく坐っていたが、それでも時どきにそっと眼をあげて、自分の客という人を見定めようとした。