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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

妹がいなくなってから、独り者の気楽さと不自由さとを一つに味わった彼は、火鉢の火をうずめて、窓を閉めて、雨戸を引き寄せて、雨傘を片手に門を出ようとすると、出合いがしらに呼びかけられた。

「兄さま」

傘も持たないで門に立ったのは妹のお光であった。雪はますます強くなって来たらしく、彼女の総身は雪女のように真っ白に塗られていた。

「妹か。今頃どうして来た」

門に立ってもいられないので、栄之丞はともかくも再び内へ引っ返すと、お光もからだの雪を払ってはいって来た。家の中はもう暗かった。

「兄さま」と、お光は重ねて兄を呼んだ。その声の怪しく顫えているのが栄之丞の耳についた。

「なんだ」

少し不安にもなって来たので、彼は行燈をまんなかに持ち出して灯をとぼした。その灯に照らされた妹の顔は真っ蒼であった。髪もむごたらしく乱れていた。着物の襟も乱れて、袖の八つ口もすこし裂けていた。何か他人とむしり合いでもしたのではないかとも思われたので、兄はあわただしく訊いた。

「え、どうした。誰かと喧嘩でもしたのか」

お光はまだ動悸が鎮まらないらしく、幅の狭い肩をいよいよせばめて、胸を抱えるように畳に俯伏していたが、やがてわっと泣き出した。