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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
彼女は裳を捌いてすっと起った。次の間へ出て、出入りの障子を明けようとすると、出合いがしらに人がはいって来た。それは次郎左衛門であった。
「あれ……」
驚いた八橋を押し戻すようにして、次郎左衛門は一緒に座敷へはいった。
さっき浮橋が来て八橋にささやいていた様子といい、あとからまた茶屋の女が催促に来て同じく八橋に何かささやいている様子を見て、次郎左衛門はそれがどうも普通の客らしくないことを直感した。普通の客でないとすれば、それが栄之丞ではないかという疑いが直ぐにまた彼の胸に泛かんだ。あいつ、何しに来たかと、次郎左衛門もやがて後からそっと出て、障子の外に忍んで二人の対話を聞いていた。
佐野の身代のつぶれたことが栄之丞の口から出た。それは単に栄之丞と自分との間にのみ保たれているべき筈の秘密で、それを遠慮なく八橋の前にさらけ出されようとは思っていなかった。いっそ思い切って打明けようとしながらも、きょうまで徒らにぐずぐずしていた自分の仕方も男らしくないが、ひとの秘密を無遠慮にすっぱ抜く栄之丞のきょうの仕方は、いよいよ男らしくないと思われた。その夜自分を闇撃ちにしようとしたのも恐らく栄之丞であろうとは思いながら、今までは確かな証拠もなかったが、きょうの話の様子を見るとまさしく彼に相違ない。