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あぶらじごく
油地獄
斎藤 緑雨
線上閱讀斎藤 緑雨《油地獄(あぶらじごく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 頁
金の手もとで出来るはずはないので拠ころなく巻紙の皺を展べて、洋燈の光と瞬きの数を比べながら筆を執ったが、さすが良心に咎められて、済まないことゝ思うとその手紙が止めたくなり、止めてはこちらが立たずと又一行とう/\切手を二枚要する長文句が出来上り、自分で持って出て郵便函へ入れようとしてなお躊い、向うから来た巡査に怪まれるのを恐れて思切って投込んだが、帰ってからその文句の廉々を諳んずるにつけて罪恐ろしく、よせばよかったと思っても見、首尾よく行けばいゝとも思って見、思い思って五日と経ったが返詞が無い、その間も金ゆえ逢れぬとなると倍一倍逢たさが差募り、わずか三四十銭の小銭を剰すばかりの蟇口を袂へ入れて、一夜ふらりと秋元を出たが、貞之進とてもそれで小歌に逢えると思ったのではなく、もしやの三字の外は言うにも言れぬ果敢ないことが頼みで、まず一散に柳橋まで乗り着けた。淀文の前春泉の前を、往復二度通り過ぎたが、顔を知った婢も見えず呼懸ける者も無し、敷居を跨ぐべき身ではないので、振返り勝に何かなく両国橋の上まで来て、新柳町の家々を見渡すと、いずれも二階に燈がかゞやいて、起ったり坐ったりの男女の影が障子にうつり、楽しそうな声が水を度って聞えるにつけて、おれも彼の座敷で飲んだ