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ぬまのほとり

沼のほとり

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《沼のほとり(ぬまのほとり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,788 字 · 16 頁

青空文庫

女主人は、小揺ぎもなくぴたりと坐って、冷淡かと思えるほど表情少く、口数もごく少く、ただその身ごなしに情味をたたえていました。背の高い細そりした体に、頬の豊かな丸顔なのが、人形めいたやさしさを感じさせました。そして彼女は妙に、八重子の方へ真正面に向かず、ただ大きな眼付だけをひたと向けました。

金糸の通った縞御召の肩に、紋付の羽織をずらせ、軽くパーマをかけた髪を、真中から分けてふっくらと結えてる、この女主人は、幾歳ぐらいだろうかと、八重子は迷いました。三十歳ほどにも思えますし、二十歳ほどにも思えました。

海苔巻きの丸餅に熱い茶を、つつましやかに味いながら、話はとぎれがちに、目前のこととは縁遠い事柄へとばかり走りました。沼で取れる魚類のこと、野菜や果物のこと、芝居や映画のこと、菓子のこと、草花のことなど……。そしてこの女主人は、あらゆることを知ってはいるが、肝腎な何かを知らず、つまりは何にも知っていないように、八重子には感ぜられました。

「お疲れでございましょうから……。」

言われてみると、もう十時を過ぎていました。

室を一つ距てた奥に寝床がのべてありました。