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〔『しなしそうとにほん』しょはん〕まえがき

津田左右吉歴史論集

津田 左右吉

線上閱讀津田 左右吉《津田左右吉歴史論集(〔『しなしそうとにほん』しょはん〕まえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 79,004 字 · 156 頁

青空文庫

第二は、異民族との戦争のなかったことである。近隣の異国もしくは異民族との戦争には、君主みずから軍を率いることになるのが普通であるが、その場合、戦に勝てばその君主は民族的英雄として賞讃せられ、従ってその勢威も強められるが、負ければその反対に人望が薄らぎ勢威が弱められ、時の状勢によっては君主の地位をも失うようになる。よし戦に勝っても、それが君主みずからの力でなくして将帥の力であったような場合には、衆望がその将帥に帰して、終にはそれが君主の地位に上ることもありがちである。要するに、異民族との戦争ということが、君主の地位を不安にし、その家系に更迭の生ずる機会を作るものである。ところが、日本民族は島国に住んでいるために、同じ島の東北部にいたアイヌの外には、異民族に接触していないし、また四世紀から六世紀までの時代における半島及びそれにつづいている大陸の民族割拠の形勢では、それらの何れにも、海を渡ってこの国に進撃して来るようなものはなかった。それがために民族的勢力の衝突としての戦争が起らず、従ってここにいったような君主の地位を不安にする事情が生じなかったのである。