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せいしゅうかんそうわ

清修館挿話

林 芙美子

線上閱讀林 芙美子《清修館挿話(せいしゅうかんそうわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,062 字 · 20 頁

青空文庫

「オイ! お上さんを呼ぼうか、僕は迷惑だよ。只、僕は僕の気持が果したいから、一人であばれているんで、本当に君なんか邪魔なんだよツ、釦を押すよ」

太つちよの下女は、谷村さんの手を押えると、まるで神様へひれ伏すかのように、身を伏せて声を噛みました。

「わたしは貴方が好きなのです。死ぬ程、思いつめて、私は皆から笑われながら、貴方を好いているのです」

谷村さんは、愕いてしまいました。あんまり愕きが大きかつたせいか、狂暴な今までの気持がふいと静まつて、反対に、おかしくておかしくて笑い出したくなりました。

「許して下さい。私のような学問のない女でも、一生懸命勉めて、貴方について行きたいと思います」

谷村さんは、竹行李の中にたまつた五六十個もある卵の事を思い、唐詩選の中の詩をふと頭に浮かべました。

人生意気に感じなば

功名誰か復論ぜんや

谷村さんは非常に涙もろくなりました。

「自分」も、そう大した男振りだとも思わないし、谷村さんは来年はもう卒業です。そうして山の村へ帰つて、お百姓相手のお医者様になるのですが、誰が「俺」のようなものに――そう思うと、急にはかないものがこみ上げて来て、太つちよの下女のくれた沢山の卵を谷村さんは思い出しました。