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しぶやけのしそ

渋谷家の始祖

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《渋谷家の始祖(しぶやけのしそ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 68,023 字 · 133 頁

青空文庫

勿論、正隆は、見識のある尚子夫人と、純朴な義弟との間に、何の感情的な拘泥もなかったことは知っている。今まで、或は、この先に凝と竦んで眼を光らせている、或る瞬間、までは、何でもないだろうことを知っているのだ。けれども、正隆は、若し、何の危険もないものとして、心の安定が絶対にまで保証されているのならば、何故尚子夫人は、自分に代理をさせようとするのか、という質問が、持ち出されて来るのである。

夜中、親が子を看護するのに、誰が用心をするだろう。

徹夜、姉が弟を守るのに、何の関心が払わるべきであろう。

それだのに、義姉である尚子夫人が、自分に代理をさせようとするのだ。

ここに至ると、正隆は、単純に総てを片づけることは出来なくなる。

人間の魂のうちにある感傷(センチメンタル)と、浪漫的(ロマンテック)とが、或る瞬間の機会(チャンス)と、火花を散らして結合した場合、或は起るかも知れない危険を、賢い尚子夫人は、知っていないとは、思われないのである。

夫人は、その運命的な瞬間を、避けているのではないか。

そう思うと、正隆は、この瞬間の生ずべき、せめて空間でもを与えたいという、慾望に駆られるのである。