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わたりどり

渡り鳥

太宰 治

線上閱讀太宰 治《渡り鳥(わたりどり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,707 字 · 14 頁

青空文庫

おもてには快楽をよそい、心には悩みわずらう。

――ダンテ・アリギエリ

晩秋の夜、音楽会もすみ、日比谷公会堂から、おびただしい数の烏が、さまざまの形をして、押し合い、もみ合いしながらぞろぞろ出て来て、やがておのおのの家路に向って、むらむらぱっと飛び立つ。

「山名先生じゃ、ありませんか?」

呼びかけた一羽の烏は、無帽蓬髪の、ジャンパー姿で、痩せて背の高い青年である。

「そうですが、……」

呼びかけられた烏は中年の、太った紳士である。青年にかわまず、有楽町のほうに向ってどんどん歩きながら、

「あなたは?」

「僕ですか?」

青年は蓬髪を掻き上げて笑い、

「まあ、一介のデリッタンティとでも、……」

「何かご用ですか?」

「ファンなんです。先生の音楽評論のファンなんです。このごろ、あまりお書きにならぬようですね。」

「書いていますよ。」

しまった! と青年は、暗闇の中で口をゆがめる。この青年は、東京の或る大学に籍を有しているのだが、制帽も制服も持っていない。そうして、ジャンパーと、それから間着の背広服を一揃い持っている。肉親からの仕送りがまるで無い様子で、或る時は靴磨きをした事もあり、また或る時は宝くじ売りをした事もあって、この頃は、表看板は或る出版社の編輯の手伝いという事にして、またそれも全く