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まんかんところどころ

満韓ところどころ

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《満韓ところどころ(まんかんところどころ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 74,601 字 · 148 頁

青空文庫

袋の中はいつ見ても油を注したと思われるほど平らかである。始めてこの色を遠くから眺めたときは嬉しかった。しかし水の光が強く照り返して、湾内がただ一枚に堅く見えたので、あの上を舟で漕ぎ廻って見たいと云う気は少しも起らなかった。魚を捕る料簡は無論無かった。露西亜の軍艦がどこで沈没したろうかなどと思い浮かべる暇も出なかった。ただ頭へぴかぴかと、平たい研ぎ澄したものが映った。

余は大和ホテルの二階からもこの晴やかな色を眺めた。ホテルの玄関を出たり這入ったりするときにもこの鋭い光の断片に眼を何度となく射られた。それでも単に烈しい奇麗な色と光だなと感ずるだけであった。佐藤から港内を見せてやるからと案内されるまでは、とうてい港内は人間の這入るところではないくらいに、頭の底で、無意識ながら分別していたらしい。

さあ行くんだと催促された時は、なるほど旅順に来る以上、催促されなければならんはずの場処へ行くんだと思った。今日の同勢は朝大連から来た田中君を入れて五人である。港務部を這入るときに水兵がこの五人に礼をした。兵隊に礼をされたのは生れてこれが初てであった。佐藤が真先に中へ這入って、やがて出て来たから、もう舟に乗れるのかと思ったら、おい這入れ這入れという。