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しょうねん

潤一郎ラビリンスI――初期短編集

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスI――初期短編集(しょうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,319 字 · 84 頁

青空文庫

いつも楽しみにして居る七十五座のお神楽も、永井兵助の居合い抜きも今日は一向見る気にならず、急いで家へ帰ってお湯へ這入り、晩飯もそこ/\に、

「縁日に行って来るよ」

と、再び飛び出したのは大方七時近くであったろう。水のように湿んだ青い夜の空気に縁日のあかりが溶け込んで、金清楼の二階の座敷には乱舞の人影が手に取るように映って見え、米屋町の若い衆や二丁目の矢場の女や、いろ/\の男女が両側をぞろ/\往来して、今が一番人の出さかる刻限である。中之橋を越えて、暗い淋しい浜町の通りからうしろを振り返って見ると、薄曇りのした黒い空が、ぼんやりと赤く濁染んでいる。

いつか私は塙の家の前に立って、山のように黒く聳えた高い甍を見上げていた。大橋の方から肌寒い風がしめやかに闇を運んで吹いて来て、例の欅の大木の葉が何処やら知れぬ空の中途でばさら/\と鳴って居る。そうッと塀の中を覗いて見ると門番の部屋のあかりが戸の隙間から縦に細長い線を成して洩れて居るばかり。母屋の方はすっかり雨戸がしまって、曇天の背景に魔者の如く森閑と眠って居る。表門の横にある通用口の、冷めたい鉄格子へ両手をかけて暗闇の中へ押し込むようにすると、重い扉がキーと軋んで素直に動く。