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しょうねん

潤一郎ラビリンスI――初期短編集

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスI――初期短編集(しょうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,319 字 · 84 頁

青空文庫

しまいには店員としてよりも其の方の勤めが主になって、晝間は一日店にごろ/\しながら、

「僕は榊原商店の内藝者さね。」

などゝ、冗談を云って、彼は得々たるものです。

榊原は堅気の家から貰った細君もあれば、十五六の娘を頭に二三人の子供もありましたが、上さん始め、女中達まで皆桜井を可愛がって、「桜井さん、御馳走がありますから、台所で一杯おやんなさいな。」と奥へ呼び寄せては、面白い洒落でも聞こうとします。

「お前さんのように呑気だったら、貧乏しても苦にはなるまいね。一生笑って暮らせれば、其れが一番仕合わせだとも。」

上さんにこう云われると、彼は得意になって、

「全くです。だから私なんざあ、昔からついぞ腹と云うものを立てたことがありません。それと云うのが矢張道楽をしたお蔭でございますね。………」

などゝ、其れから一時間ぐらいは、のべつに喋ります。

時には又小声で、錆のある喉を聞かせます。端唄、常磐津、清元、なんでも一通りは心得て居て自分で自分の美音に酔いながら、口三味線でさも嬉しそうに歌い出す時は、誰もしみ/″\と聞かされます。いつも流行唄を真っ先に覚えて来ては、

「お嬢さん、面白い唄を教えましょうか。