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しょうねん

潤一郎ラビリンスI――初期短編集

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスI――初期短編集(しょうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,319 字 · 84 頁

青空文庫

恐怖

私があの病気に取り憑かれたのは、何でも六月の初め、木屋町に宿泊して、毎日のように飲酒と夜更かしとを続けて居た前後であった。―――尤も其の以前、東京に居る頃も一度ならず襲われた覚えはあるが、禁酒をしたり、冷水摩擦をしたり、健脳丸を呑んだりしてやっとこさと恢復し切って居たのだ。それが京都へ来てから、再び不秩序な生活に逆戻りした結果、知らず識らずブリ返して了ったのである。

友達のN―――さんの話に依ると、私の此の病気―――ほんとうに今想い出しても嫌な、不愉快な、そうして忌ま忌ましい、馬鹿々々しい此の病気は、Eisenbahnkrankheit(鉄道病)と名づける神経病の一種だろうと云う。鉄道病と云っても、私の取り憑かれた奴は、よく世間の婦人にあるような、船車の酔とか眩暈とか云うのとは、全く異なった苦悩と恐怖とを感ずるのである。汽車へ乗り込むや否や、ピーと汽笛が鳴って車輪ががたん、がたんと動き出すか出さないうちに、私の体中に瀰漫して居る血管の脈搏は、さながら強烈なアルコールの刺戟を受けた時の如く、一挙に脳天へ向って奔騰し始め、冷汗がだくだくと肌に湧いて、手足が悪寒に襲われたように顫えて来る。