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しょうねん

潤一郎ラビリンスI――初期短編集

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスI――初期短編集(しょうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,319 字 · 84 頁

青空文庫

」

こんな事を云って、車夫を追拂いながら矢張りいつまでも腰を掛けて居た。「大阪へ行くんだから。」と答えたのが、自分には何だか、「もう直死ぬんだから。」と云うように響いた。“If any one should ask you, say I've gone to America!”こう叫んで、言下に右の蟀谷へピストルをあてゝ自殺をした『罪と罰』の中の Svidrigailoff のように、「私は大阪へ行くんだから。」と云って、忽ち眼を舞わして此の場へ悶絶したら、あの車夫はどんなに吃驚するだろう。

時計を見ると彼れこれ一時である。村役場の引けるのは三時か四時か知らぬが、どうしても今日中に手続きを済まして置かなければ、検査を受ける訳に行かない。折角友人に奔走して貰った親切を無にしなければならない。私はふと一策を案じ出して近所の洋酒屋からスコッチ、ウイスキーのポケット入りの壜を購った。そうして、ベンチへ凭れながら、其れをグビリ、グビリと飲み始めた。

酒の力で神経を一時麻痺させれば、大概の恐怖は取り除かれると云う事を、私は此れ迄の自己の経験に依って、迷信的に信じて居た。