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はなかみろうにん

濞かみ浪人

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《濞かみ浪人(はなかみろうにん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,425 字 · 39 頁

青空文庫

がたがたと戸に手をかけている間も、数右衛門の眼には、いつも自分に会えば微笑む彼女の顔しかなかった。こういう方法に出たのは、もう一閑だの庄左衛門だのを通して聞くよりも、彼女自身の口から、直かに聞くべきだと思ったからである。一閑や庄左衛門には、侍として、云い難い気持も、お千賀へ向ってならば、自分も云えると思ったからである。

――当然、彼の物音に、部屋のうちの者は、すぐ眼をさました。

『あっ……誰じゃ』と、女の声が中でおののく。

『お千賀どの。――拙者だ、数右衛門でござる』

『げっ……』

慄然と、障子へ触れて起ったような絹摺れが、戸を隔てた外にまで洩れた。

『あっ、お静かに。――お千賀どの、静かに』

そのくせ、数右衛門の仕方は少しも静かでない。一枚の戸を、がたがた揺すって、外へはずし、のっそり入って行こうとすると、

『痴れ者ッ』

――びゅッと、胸いたへ向って、手槍の光が、闇の中から飛んで来た。

『しまったっ』

後ろ跳びに、庭へ跳ぶと、

『この痴れ者ッ』

と、槍は彼の影を尾け廻して、離れなかった。

『やあ、待たれい。庄左衛門殿ではないか。数右衛門でござる』

『だまれっ、不埓な』