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ひのとり

火の鳥

太宰 治

線上閱讀太宰 治《火の鳥(ひのとり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 頁

青空文庫

資生堂のなかには、もう灯がともっていて、ほの温かった。熱いコーヒーを、ゆっくりのんだ。サンドイッチを、二切たべて、よした。資生堂を出た。

日が暮れた。

こんどはステッキを肩にかついで、ぶらぶら歩いた。ふとバアへ立ち寄った。

「いらっしゃい。」

隅のソファに腰をおろした。深い溜息をついて、それから両手で顔を覆ったが、はっと気を取り直して顔をしゃんと挙げ、

「ウイスキイ。」と低く呟くように言って、すこし笑った。

「ウイスキイは、」

「なんでもいい。普通のものでいいのだ。」

六杯、続け様に、のんだ。

「おつよいのね。」

女が、両側に坐っていた。

「そうか。」

乙彦は、少し蒼くなって、そうして、なんにも言わなかった。

女たちは、手持ちぶさたの様子であった。

「かえる。いくらだ。」

「待って。」左手に坐っていた断髪の女が、乙彦の膝を軽くおさえた。「困ったわね。雨が降ってるのよ。」

「雨。」

「ええ。」

逢ったばかりの、あかの他人の男女が、一切の警戒と含羞とポオズを飛び越え、ぼんやり話を交している不思議な瞬間が、この世に、在る。

「いやねえ。あたし、この半襟かけてお店に出ると、きっと雨が降るのよ。