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ほのおのなかにうたう

焔の中に歌う

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《焔の中に歌う(ほのおのなかにうたう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,476 字 · 27 頁

青空文庫

ドイツのリードにしましょうネ。何がいいかしら、……深井さん……と言いましたネ、あなたはピアノがいけません? そう、伴奏を弾いて下さるといいけれど、弾き語りでは気が乗らないワ、この節の坊っちゃん方は、みんなピアノ位は弾くじゃありませんか、仕方が無いワネ」

そんな事を言いながら、グランドピアノの蓋を払って、シューベルトのものを二つ――最初は「菩提樹」それから「さすらい人」

駒鳥絹枝の歌の美しさを、今更申し上げるのは愚かな事です。シューベルトは清純なもので、駒鳥絹枝のような、魅惑的な歌い手に向かないではないかという人もあるでしょうが、それは、駒鳥絹枝のシューベルトを、聴いた事の無い人の言うことです。「菩提樹」や「さすらい人」の美しさ、やるせなさ、物悲しさは、涙なしには聴いて居られません。

「……さすらい旅路の、果はいずこ……幸の国は遠しと、ささやく……」と歌い了った時、深井少年の眼には、不覚の涙さえ光って居りました。

「嬉しいワ、あなたは私のヴァンダラーを聴いて、泣いて下さるのネ」

ピアノの前から起って、こう言う駒鳥絹枝の眼にも、涙が宿って居ることを、深井少年は見のがしませんでした。