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ぼんのうひぶんしょ
煩悩秘文書
林 不忘
線上閱讀林 不忘《煩悩秘文書(ぼんのうひぶんしょ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 86,705 字 · 173 頁
それで、じぶんと自分がつくづく浅間しくなり、もうこれで、この陽かげの世渡りとはふっつり手を切るつもりだ。ついては、これからはこの宿屋稼業へ身を入れる気だが、今日など、泊り客の具合いは何んなものだ。」
そう言って訊くので、与助はくすぐったそうな顔、
「へえ、何ですか、先刻ね、変てこな侍が一人、女を伴れて宿を取りやしたよ。裏二階の『梅』へ通して置きやしたが――。」
「二人連れか。うむ、何んなやつらだ。」
「大方今夜だけの泊りでげしょうが、男も女も手ぶらでね、荷物ひとつ無えんです。それに、武士は頭巾を――。」
与助がそこまで言いかけた刹那、あの、日本橋詰の高札場から、千浪と白覆面の後を尾けて行った由公――承知の由公が、礫みたいに走り込んで来たかと思うと、そこの縁さきにぺしゃんと尻餅、馬鹿っ声を張り揚げたものだ。
「お! 親分! あ、会わす顔がねえ。晦かれた。見事にまかれた――。」
「げっ! あの白頭巾と娘を見失ったと?」
からり! 長煙管を抛り出して起ち上った佐吉、
「そうか。仕方がねえ。」
それだけ言うと、静かに背後へ手を伸ばして、茶箪笥の横に立てかけてあった脇差を取った。