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ぼんのうひぶんしょ

煩悩秘文書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《煩悩秘文書(ぼんのうひぶんしょ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 86,705 字 · 173 頁

青空文庫

あたしゃ見ていて、いっそ泪が出てしようがないよ。」

「何か深え事情があるらしいが、なにしろ、こっちの言うこたあ通ぜず、おまけに口をきかねえんだから、始末におえねえ。」

が、小信が出羽に伴れ去られたことだけは知っている宗七、なにかこれは出羽守の暴状と関係があるらしい、早くも察していっそう暗い気もちになりながら、一本独鈷の博多の帯を廻しまわし、足を踏みかえて締めている最中――。

がらっ!

入口の格子が開いて、

「宗七、いるか。」

低い、しゃ嗄れ声が土間に。

ぼんのう小僧噂の聞書

「お、川俣の旦那――。」

と宗七は、たちまちもとの、人に対する時のへらへらした芸人口調に返って、

「ようこそお越しを、へへへへへ。」

ぴょこりと頭を低げて、上り口にすわった。

かれ宗七は、いわば二重人格なので。女たらしのほか能のない恋慕流しの宗七と、捕親として十手を閃めかし、繩を捌く時の彼と。

後のかれは、めったに見せたことがない。

普段はいつも、このからだらしのない、頼りにならない女殺し宗七――慣い性というとおり、もうこのほうがほんとうの彼なのかもしれない。三国ヶ嶽の頂上で、伴大次郎を涙の出るほど失望させたのも、このかれの半面――恋慕流しの宗七だった。