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ぼんのうひぶんしょ

煩悩秘文書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《煩悩秘文書(ぼんのうひぶんしょ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 86,705 字 · 173 頁

青空文庫

」

お多喜の差し出した茶を、伊予之進は、大きな音を立てて啜ってから、

「時に、宗七――。」

「へえ。」

「へえじゃあねえ。ぱっちりとこう、眼を開けな。またお前の出幕が廻って来たぜ。」

「とおっしゃいますと?」

「宗七様の帰りを待ちかねていたんだ。またあの、煩悩夜盗があちこちに出はじめた騒ぎでな。」

「では、あの、煩悩夜盗と名乗る押込みが、また、お膝下を荒しているんで――。」

「うむ。この七年間、われらを愚弄し抜いてまいった煩悩夜盗だ。きゃつのためには、お互いたびたび苦杯を舐めさせられたことは、覚えがあろう。江戸に岡っ引なしとまで言われて――それが、先ごろより、またもや暴れ出したのじゃ。」

「それは存じておりやすが――。」

そう言って宗七は、じっと腕組をした。

煩悩夜盗というのは。

七年ほど前から深夜の江戸を荒らし出した怪盗で、警戒の厳重な富豪と言われる家のみを襲い、箱に入れて積んだ大金を担ぎ出して、しかも、何らの手がかりをも残さない。いや、手がかりといえば、いつも大きな手がかりがあるので――それは、この賊は押し入った家に、必ず「煩悩」の二字を書き残しているのである。