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おぎふくうた
犀星王朝小品集
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《犀星王朝小品集(おぎふくうた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,794 字 · 211 頁
」
「いや、そう言わるるな、この家も、我らも、庭も、そなたのものになるときを我らは望んでいる。父上も、そして妹も。」
筒井はなにもいうことがなく、近づいてくるものをいまは静かに見まもっていなければならず、それがどう展かれて来ても、筒井は胸をひろげてうけとるよりほかに、彼女のすることはなかった。人は運命を自分でひらいてゆくべきものだが、何と筒井自身はそとから多くの運命がひらかれ訪ずれて来ることであろう。
春が過ぎ夏がおとずれ、水郷の祭の宵であった。社詣りの戻りの女車がつづいて、いずれが筒井の車だか分らなかった。貞時はさがしようもなく幾つかの女車を遣り過したなかに、薄葉を籠のようにふくらがし、元の方を扉に結えた女車があった。薄葉の中にあまたの蛍が入れてあるらしく、そこだけ、青い灯火のような光が胎んで、明りにかわるようにしてあった。しかも、その扉のすきまからは匂うような顔がさしのぞいていて、仄かではあるが時々強い光を面に受けていた。貞時は、女車のそばによると、失礼ではござるがお尋ね申すと断りながらいった。
「筒井殿ではござらぬか。」
「はい。」
そう答えた彼女は扉をすこし開け、開けたときに病ましげな悩ましい蛍の光の明滅は、筒井の片頬をうかべ上げた。