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おおかみのかい
狼の怪
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《狼の怪(おおかみのかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,063 字 · 10 頁
谷を越えた左手の峰の林の間に、赤い月が登りかけているところであった。
引き緊っていた章の心に、ややゆとりが出来た。彼は岩に凭れて長ながと両足を投げだしたが、昼の疲れが返ってきて、足の裏や膝こぶしに軽い痛みを覚えてきた。
円い大きな月が団扇のように木の枝に懸って見えた。章はいつの間にか睡くなったのて、体を横倒しにして、矢筒を引き寄せ、それを枕にして寝てしまった。心よい重おもしい睡が続いてやってきた。そうして前後を忘れて睡っていた章は、何物かに咽喉元を嘗められたような気がするので、手をやって払い除けようとしたが、そのひょうしに手の端に生物の温味を感じたので、力を入れて握り締めた。と、同時に女の叫ぶような不思議な声が聞えた。
夢現の境にいた章の眼は覚めてしまった。青い衣服を着た小柄な女が、自個に片手を掴まれて傍に仆れていた。
「赦してください、赦してください」
女は泣声を立てた。章は手に力を入れることを止めて、俯伏しになっている女の顔を見た。若い長手な顔をした女であった。
「赦してください、悪うございました」
章はこうした山の中へ若い女のくるのを不思議に思わぬでもなかったが、別に敵意のない弱い女ということを見極めたので、掴んでいた手を放した。