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おおかみのかい

狼の怪

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《狼の怪(おおかみのかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,063 字 · 10 頁

青空文庫

門の前には谷水が白く流れて、それに石橋が架けてあった。乳母はその石橋をさきへ渡って家の中へ入って往った。

錦の帷の見える室の中に燈火が点いていた。章はその室へ通されて一人で坐っていた。乳母と女が入ってきた。二人の手には肉を盛った鉢があった。

「何もありませんが、おあがりになってくださいまし、お嬢さんも私もお相伴いたします」

章はお辞儀をした。乳母は一人でまた出て往って料理をたべる器を持ってきた。そして三人で卓に向った。

「さあ、何もございませんが」

乳母は章の盃に酒を充した。

「お嬢さんも、自個でおあがりなさいまし」

女は無邪気に鉢の肉を取って喫いはじめた。章はその無邪気な容を見ないようにして見ていた。乳母も二人が食事をはじめたのを見ると、自個でも肉に手をつけた。

章はまた乳母の方へ眼をやった。女が無邪気であるように乳母も無邪気であった。とてもこんなことは村の女の間では見られないと思った。

「さあ、どうぞ、おあがりくださいまし、私達も遠慮なしにいただいております」

乳母は時どきこんなことを言った。

章はさっきから無邪気な女の口もとを見ていた。女は食物に気をとられていて章のそうしている容が判らないようなふうであった。