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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《猫と庄造と二人のおんな(ねことしょうぞうとふたりのおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 頁
………あ、リリーかな、やれ嬉しや! そう思った途端に動悸が搏ち出して、鳩尾の辺がヒヤリとして、次の瞬間に直ぐ又がっかりさせられる。こう云うと可笑しな話だけれども、まだ庄造はこんなヤキモキした心持を人間に対してさえ感じたことはないのであった。せいぜいカフェエの女を相手に遊んだぐらいが関の山で、恋愛らしい経験と云えば、前の女房の眼を掠めて福子と逢引していた時代の、楽しいような、懊れったいような、変にわくわくした、落ち着かない気分、―――まああれぐらいなものなのだが、それでもあれは両方の親が内々で手引をしてくれ、品子の手前を巧く胡麻化してくれたので、無理な首尾をする必要もなく、夜露に打たれてアンパンを咬るような苦労をしないでもよかったのだから、それだけ真剣味に乏しく、逢いたさ見たさもこんなに一途ではなかったのであった。
庄造は、母親からも女房からも自分が子供扱いにされ、一本立ちの出来ない低能児のように見做されるのが、非常に不服なのであるが、さればと云ってその不服を聴いてくれる友達もなく、悶々の情を胸の中に納めていると、何となく独りぽっちな、頼りない感じが湧いて来るので、そのために尚リリーを愛していたのである。