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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《猫と庄造と二人のおんな(ねことしょうぞうとふたりのおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 頁
になっていたのであった。彼は人間の女のお産を見たことはないが、もしその女が年の若い美しい人であったら、きっとこの通りの、恨めしいような切ないような眼つきをして、夫を呼ぶに違いないと思った。彼は幾度も襖を締めて立ち去りかけては、又戻って来て覗いてみたが、その度毎にリリーも函から首を出して、子供が「居ない居ないばあ」をするように此方を見た。
そうしてそれが、もう十年も前のことなのである。而も品子が嫁に来たのがようよう四年前であるから、それまで六年の間と云うもの、庄造は蘆屋の家の二階で、母親の外にはただこの猫を相手にしつつ暮らしたのである。それにつけても猫の性質を知らない者が、猫は犬よりも薄情であるとか、不愛想であるとか、利己主義であるとか云うのを聞くと、いつも心に思うのは、自分のように長い間猫と二人きりの生活をした経験がなくて、どうして猫の可愛らしさが分るものか、と云うことだった。なぜかと云って、猫と云うものは皆幾分か羞渋みやのところがあるので、第三者が見ている前では、決して主人に甘えないのみか、へんに余所々々しく振舞うのである。リリーも母親が見ている時は、呼んでも知らんふりをしたり、逃げて行ったりしたけれども、さし向いになると、呼びもしないのに自分の方から膝へ乗って来て、お世辞を使った。