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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《猫と庄造と二人のおんな(ねことしょうぞうとふたりのおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 頁

青空文庫

そして彼女のあの眼つきが、何処かの隅から恨めしそうに此方を見ているように思えて仕方がなかった。今更悔んでも追っ付かないことだけれども、あんなに老衰していたものを、なぜむごたらしく追い遣ってしまったのだろう。なぜこの家で死なしてやらなかったのだろう。………

「あんた、何で品子さんあの猫欲しがってたのんか、その訳分ってなはるか。―――」

その日の夕方、例になくひっそりとしたチャブ台に向って、しょんぼり杯のふちを舐めている亭主を見ながら、福子が照れ臭そうな調子で云うと、

「さあ、何でやろ。」

と、庄造はちょっと空惚けた。

「リリー自分のとこへ置いといたら、きっとあんたが会いに来るやろ云うところやねん。なあ、そうだっしゃろが。」

「まさか、そんな阿呆らしいこと、………」

「きっとそうに違いないねん。わて今日やっと気イ付いたわ。あんたその手に乗らんようにしとくなはれや。」

「分ってる、誰が乗るかいな。」

「きっとやなあ?」

「ふふ」

と庄造は鼻の先で笑って、

「念押すまでもないこッちゃないか。」

と、又杯のふちを舐めた。

今日は忙しおますさかいに、もう上らんと帰りますわと、玄関先にバスケットを置いて、塚本が出て行ってしまってから、品子はそれを提げたまま狭い急な段梯子を上って、自分の部屋に当てられた二階の四畳半に這入って行った。