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ねこまち

猫町 他十七篇

萩原 朔太郎

線上閱讀萩原 朔太郎《猫町 他十七篇(ねこまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 28,483 字 · 58 頁

青空文庫

この日もまた、そのいつも通りの帰宅の時間に、いつも通りの空虚な感情が襲って来た。だがそうした気分の底に、どこか或る一つの点で、いつもとちがった不思議の予感が、悪寒のようにぞくぞくと感じられた。彼女の心に浮んだものは、いつものような退屈な部屋ではなく、それよりももっと悪い、厭やな陰鬱なものが隠れている、不快な気味のわるい部屋であった。その圧迫する厭やな気分は、どんなにしても自分の家に、彼女を帰らせまいとするほどだった。けれども結局、彼女は重たい外套を着て、いつも通りの家路をたどって行った。

部屋の戸口に立った時、彼女は何物かが室の中に、明らかにいることを直感した。いつ、どこから、だれがこの部屋に這入って来て、自分の留守にいるのだろう。そうした想像の謎の中で、得体のわからぬ一つの予感が、疑いを入れない確実さで、益はっきりと感じられた。「確かに。何物かがいる。いるに相違ない。」彼女はためらった。そして勇気を起し、一息に扉を開けひらいた。

部屋の中には、しかし一人の人間の姿もなかった。室内はひっそりとしており、いつものように片づけられていた。どこにも全く、少しの変ったこともなかった。